光半導体(光電融合)とは?

光半導体(光電融合)とは?AIデータセンターの電力危機を救う次世代技術を解説【2026年版】

この記事でわかること
  • AIデータセンターがぶつかっている「電気配線の限界」とは何か
  • 「光電融合」「シリコンフォトニクス」「Co-Packaged Optics(CPO)」の仕組みの違い
  • NVIDIA・Broadcom・TSMCが2025〜2026年に発表した最新ロードマップ
  • NTTの「IOWN構想」は2026年時点でどこまで実用化されているか
  • 電子回路の論理ゲート(AND・OR・NOT)を、光でどう作る(作ろうとしている)のか、その物理的な原理
  • 「光コンピューティング」は電子コンピュータに取って代わるのか(過大評価しがちな点に注意)
  • NTTやQDレーザなど、日本の研究・企業が持つ技術的な強み
前半は専門知識なしで読めるように、後半は技術者向けの数値まで踏み込みます。各項目には話の確かさを次の印で付けました。
確立 教科書レベル 査読済み 論文・公式発表で確認済み 未査読 企業発表・報道のみ 仮説 未検証・出典により食い違いあり

1. AIデータセンターがぶつかっている「電気の壁」

ChatGPTのような生成AIを動かすデータセンターには、大量のGPU(画像処理用の半導体を発展させた、AI計算に向く半導体)が並んでいます。このGPUたちは、互いに大量のデータをやり取りしながら計算を進めます。ところが今、その「GPU同士の配線」そのものが、AIの発展を止めかねないボトルネックになりつつあります。

国際エネルギー機関(IEA)の公式レポートによると、世界のデータセンターの電力消費は2022年時点で推定約460テラワット時(TWh)でしたが、2026年には1,000TWhを超える可能性があるとされています。未査読(IEA公式レポートの数値。2026年分は予測値)

AI向けのGPUサーバーは、従来の数キロワット前提だったラック(サーバーを収める棚)の設計を超え、ラックあたり100キロワットを超える例も出てきています。空気を送る冷却(空冷)では追いつかず、液体で冷やす「液冷」の導入が広がっているのもこのためです。未査読(業界メディアの解説記事)

NVIDIAも2025年3月の公式発表で、現在のAIデータセンター(同社は「AIファクトリー」と呼びます)は従来とは桁違いの規模になっており、ネットワークの基盤そのものを作り直す必要があると説明しています。未査読(企業公式発表)

なぜ「電気配線」が問題なのか
電気信号は、速く・遠くへ送ろうとするほど、配線の途中で弱まりやすくなります(高周波になるほど減衰が大きい)。信号が弱まった分を電気的に増幅・補正する回路を増やすと、今度はその回路が消費する電力が増えてしまいます。つまり「速くしようとすると電気を食う」という悪循環があるのです。未査読(業界メディアの技術解説。物理モデルの詳細な定量検証は本記事では行っていません)

2. 光で送ると何が変わるのか

ここで注目されているのが、電気の代わりに「光」でデータをやり取りする技術です。光は電気に比べて、長い距離を送っても弱まりにくく(減衰が少ない)、電気的な増幅・補正の段数を減らせます。また、1本の光ファイバーに複数の色(波長)の光を同時に通す「波長多重」という技術を使うと、配線の本数を増やさずに送れるデータ量を大きく増やせます。未査読(業界解説記事で広く説明されている内容)

▼ 電気で送る場合と、光で送る場合の違い(イメージ)
GPU
(電気信号)
→
銅配線
速いほど減衰・発熱大
→
GPU
GPU
(電気信号)
→
光変調器
(電気→光)
→
光ファイバー
減衰が少ない
→
受光器
(光→電気)
→
GPU
光を使う方式では、「電気信号を光に変える部品(光変調器)」と「光信号を電気に戻す部品(フォトダイオードなどの受光器)」が新たに必要になります。この2つの変換部品を、シリコンの基板上に半導体の製造プロセス(CMOSプロセス)で作り込む技術が「シリコンフォトニクス」です。

この「電気信号を扱う回路(エレクトロニクス)」と「光信号を扱う回路(フォトニクス)」を、1つのチップやパッケージの中に統合する技術全体を光電融合と呼びます。既存の半導体工場の設備を活かせる点もシリコンフォトニクスの強みとされています。未査読(業界解説記事)

光だけでは完結しない
最終的にGPUが処理できるのは電気信号です。そのため、光⇄電気の変換(O/E・E/O変換)はどうしても必要で、この変換部分では信号の損失・遅延・ノイズが発生します。「光にすれば万事解決」ではなく、変換のたびにエネルギーを使う点は変わらないことに注意が必要です。未査読(学術論文のレビュー記述に基づく)

業界では、1ビットを送るのに使うエネルギーを「pJ/bit(ピコジュール毎ビット)」という単位で比較します。現行の光トランシーバー(100Gbps×8程度)は10〜15pJ/bit(8〜12W)とされ、業界の近い目標は5pJ/bit前後、将来目標は1pJ/bit前後です。数字が小さいほど省エネということになります。未査読(業界メディアの技術解説記事)

3. 実装の進化:プラガブル→ニアパッケージ→CPO

光電変換をどこで行うかによって、技術は段階的に進化してきました。変換の場所をプロセッサに近づけるほど、電気で送る距離(弱くなりやすい区間)が短くなり、省エネ・高速化が進みます。

▼ 光変換の場所がプロセッサに近づいていく流れ
プラガブル光学
現行の主流。着脱式の光トランシーバーをスイッチの外側に挿す
ニアパッケージ光学(NPO)
光モジュールをチップのすぐそばの基板上に置く
Co-Packaged Optics(CPO)
光回路をスイッチASICと同じパッケージに封入する
バーの高さは「プロセッサに近い度合い」のイメージです。CPOは電気で送る距離が最も短くなる反面、光部品が壊れたときにパッケージごと交換するコストや、熱設計の難しさが課題になります。

4. 世界の最前線:NVIDIA・Broadcom・TSMC

2025〜2026年にかけて、AI向けスイッチにCPOを組み込む動きが相次いで発表されています。

企業・製品発表時期仕様効率などの主張
NVIDIA
Quantum-X Photonics(InfiniBand)
2025年3月発表
2025年後半〜2026年前半提供予定
800Gb/s×144ポート、液冷従来方式比:電力効率3.5倍、レーザー数1/4、信号品質63倍
NVIDIA
Spectrum-X Photonics(イーサネット)
2025年3月発表
2026年提供予定
最大400Tb/s(800Gb/s×512ポート)同上(NVIDIA公式発表の主張)
Broadcom
Bailly
2023年3月デモ51.2Tb/s、Tomahawk 5ベース400Gb/sあたり5.5W(プラガブル比50%以上減)
TSMC
COUPE(製造基盤)
2026年に量産移行の方針
(試作段階との報道もあり)
SoIC-Xで電子回路を光回路に積層従来比:電力効率5〜10倍、レイテンシ1/10〜1/20(報道ベース)
数字は「企業の主張」であることに注意
表中の効率・性能の数値は、各社の公式発表や、それをもとにした業界メディアの報道によるものです。独立した第三者機関による検証はほとんど確認できませんでした。また、2026年10月時点でTSMCのCOUPEが「量産段階」なのか「試作段階」なのかは、報道によって評価が分かれています。実際の出荷実績は各社の公式発表で確認するのが確実です。未確認(出典間で食い違いあり)

NVIDIAはこれらのスイッチを、TSMCの3D COUPEプロセスで製造するマイクロリング共振器変調器(MRM)という方式で作っており、台湾のAccton Technologyや米Coherent、Corningなど幅広い企業と供給網を組んでいます。未査読(企業公式発表)

5. 日本発の挑戦:NTT「IOWN構想」はどこまで来たか

日本では、NTTが「IOWN(アイオン)」構想のもと、ネットワークからチップの内部まで、段階的に光化の範囲を広げる長期計画を掲げています。

IOWN 1.0 ── ネットワーク間を光化(商用化済み)

2023年3月16日、NTT東日本・西日本が「APN(オールフォトニクス・ネットワーク)」の商用サービスを開始。2024年12月には最大800Gbpsの帯域保証型サービス「All-Photonics Connect powered by IOWN」も提供を始め、データセンター間接続・高精細映像伝送・遠隔医療などでの利用を想定しています。未査読(NTT公式発表に基づく)

IOWN 2.0 ── ボード(基板)間を光化(2025年〜)

サーバー内の基板同士を光でつなぐ段階。NTTは2023年6月に「NTTイノベーティブデバイス株式会社」を設立し、光電融合デバイスの開発・製造・販売を専業で行う体制を整えました。2025年10月の説明会では、2026年に「光電融合スイッチ」を市場投入し、消費電力50%削減・102.4Tbpsの大容量化を目指すと説明。米ブロードコム、新光電気工業、台湾Accton Technologyと協業しています。未査読(企業発表・業界報道)

IOWN 3.0 ── パッケージ間を光化(開発段階)

基板上の、複数のパッケージ同士を光でつなぐ段階。現時点では開発段階で、商用化の具体的な時期は確認できませんでした。未確認

IOWN 4.0 ── パッケージ内のダイ間・チップレット間を光化(構想段階)

1つのチップの中の、さらに細かい部品(ダイ)同士まで光でつなぐという、最も野心的な段階。構想段階であり、実現時期は示されていません。未確認

NTTグループの公式ページでは、APNについて2030年の目標性能として「電力効率100倍」「伝送容量125倍」「エンド・ツー・エンド遅延1/200」を掲げています。ただし、この「電力効率100倍」は光電融合技術を適用した部分についての目標値であり、データセンター全体の電力効率がいきなり100倍になるという意味ではありません。未査読(企業の将来目標。現時点の達成率は非公開)

海外メディアの見立て
英IT専門メディアThe Registerは、IOWNフォーラム(Google・Microsoft・Cisco・Intel・NVIDIA・Broadcomなど150社以上が参加)が掲げるこの2030年目標を「極めて野心的(vastly ambitious)」と評しています。同メディアは、ネットワーク間の光化(IOWN1.0)はすでに現実のものになりつつある一方、ボード間(2.0)は実証段階、パッケージ間・ダイ間(3.0・4.0)は「まだ遠い(more distant)」と位置づけています。未査読(海外メディアの論評)

6. 日本の基盤技術:NTT物性科学基礎研究所とQDレーザ

光電融合を支える基盤技術の面でも、日本の研究機関・企業には独自の強みがあります。

NTT物性科学基礎研究所(BRL)のナノフォトニクスセンターでは、微細加工技術を使った光の構造研究に加え、「超低消費エネルギーの光電融合情報処理チップ」に向けた技術開発が進められています。同研究所の納富雅也フェローは、2015〜2022年にJST CRESTの研究代表者として「集積ナノフォトニクスによる超低遅延演算技術」の研究を率いました。未査読(研究者ページ・研究課題データベースの記載)

もう一つの例が、富士通研究所からのスピンオフベンチャーQDレーザ(東証グロース市場上場)です。同社の「量子ドットレーザ」は、レーザの発光部に数十ナノメートルサイズの微細構造(量子ドット)を使うことで、温度が変化しても出力電流を調整せず安定して動く、という特長を持つとされています(報道によれば-40℃から120℃近辺まで対応)。2023年4月には、光配線用シリコンフォトニクスチップ「IOCore」向けに量子ドットレーザ6万個の量産受注を獲得し、同年5月から出荷を開始したと発表しました。未査読(企業発表・業界メディアの報道)

QDレーザの位置づけは、光電融合システムそのものではなく、その中核部品である「光源(レーザ)」を供給する立場です。光電融合は一社だけで完結する技術ではなく、光源・変調器・受光器・パッケージング・ソフトウェアなど、多くの専業企業が部品を持ち寄って組み上げる産業構造になっている点が、半導体業界全体の縮図のようにも見えます。未査読(業界解説記事の整理)

7. 「光コンピューティング」は電子コンピュータに取って代わるのか

ここまでは「光でデータを運ぶ」話でしたが、もう一歩進んで「光で計算そのものを行う」技術、いわゆる光コンピューティングも研究が進んでいます。せっかくなので、電子回路の計算の基本である論理ゲート(NOT・AND・OR)を光でどう作るのか、原理まで掘り下げてみましょう。

7-1. なぜ「光の論理ゲート」は電子回路より難しいのか

電子回路の論理ゲートは、トランジスタという「一方の電気信号で、もう一方の電気信号の流れをスイッチする」素子の組み合わせでできています。これは電子同士・電子と電場が強く引き合ったり反発したりする(クーロン力で相互作用する)という性質に支えられています。確立(半導体工学の基礎)

ところが光(光子)は、真空中や通常の透明な材料の中では、お互いにほとんど相互作用しません。光と量子光学の査読付きレビュー論文(Nature Photonics誌、2014年)は冒頭で「真空中を進む光子は互いに相互作用しない」と述べ、この性質が光を長距離通信に向かせる一方、2つの光信号を使った情報処理(論理演算)には不向きにしていると説明しています。確立(Nature Photonics誌 査読済みレビュー論文)

光同士を相互作用させるには「非線形光学効果」を持つ特殊な材料が必要ですが、通常の材料ではこの効果は極めて弱く、よほど強い光を使うか、原子を閉じ込めた特殊な光共振器のような最先端の研究設備を使わない限り、効果はごくわずかです。確立(同上)この物理的な壁への対処として、現実の技術は大きく2つの方向に分かれています。

7-2. 実際に使われている方式:電気信号で光を切り替えるMZIスイッチ

1つ目は、光同士を直接相互作用させるのではなく、電子回路(電圧)にスイッチ役を任せ、光は情報を運ぶキャリアとして使う「電気光学(E-O)」方式です。現在のシリコンフォトニクス変調器で広く使われているのが、マッハツェンダー干渉計(MZI)という構造です。

▼ マッハツェンダー干渉計(MZI)が光をON/OFFする仕組み
光入力
→
分岐
(2つの経路へ)
経路A
電圧なし
位相そのまま
経路B
電圧あり
位相がπずれる
合流
(干渉)
→
強め合う→明(1)
弱め合う→暗(0)
光を2つの経路に分け、一方に電圧をかけて位相(光の波の山と谷のタイミング)をずらします。再合流させたとき、位相が揃っていれば強め合って明るく(1)、半波長ずれていれば打ち消し合って暗く(0)なります。電圧の有無で「1」と「0」を切り替えられるわけです。

シリコンでは、電圧によるこの位相変化に「プラズマ分散効果」(PN接合にかける電圧で、自由キャリア=電子・正孔の密度が変わり、それが屈折率を変える現象)を使います。英サウサンプトン大学のReedらの査読付き論文(Frontiers in Physics誌、2014年)では、この方式のMZI変調器で毎秒52ギガビットの高速変調と、35dBという高い明暗比(消光比)を実証しています。査読済み(Frontiers in Physics誌掲載論文)

もう一つの代表的な材料がニオブ酸リチウム(LiNbO3)で、電場で屈折率が変わる「ポッケルス効果」を使います。ハーバード大学のグループによる2024年のレビューによれば、この材料を薄膜化した変調器は、π位相シフトに必要な電圧が約1V、明暗比20dB超、動作帯域100GHz超という高い性能に達しているとされます。未査読(プレプリント段階のレビュー。引用されている個別の実験成果自体は査読済み論文に基づく)

これは「電気信号で光を制御する」方式
MZIスイッチは、2つの独立した光信号同士が直接相互作用してブール論理(AND・OR)を作っているわけではありません。電圧という電気信号が「スイッチ役」を担い、光は運ばれるデータそのものです。現在のCPO・シリコンフォトニクス製品(NVIDIA・Broadcom・TSMCなど)でMZI型変調器が使われている主な用途も、GPU間でやり取りするデータを光に乗せる「変調」(通信のための0/1エンコード)であり、2つの光入力に対してAND・ORのような論理演算を行う「光の論理ゲート」として使われているわけではありません。未査読(本記事による整理)

7-3. 研究段階の「全光」論理ゲート:半導体光増幅器(SOA)方式

2つ目の方向は、電気の力を借りず光だけで論理ゲートを作る「全光(all-optical)」方式です。2026年2月に査読付き学術誌Nanomaterials(MDPI)に掲載された包括的レビュー論文によれば、主な原理は半導体光増幅器(SOA)の非線形効果を使う2つの方式に分かれます。査読済み(2026年2月発行のレビュー論文)

  • 交差利得変調(XGM):強い「ポンプ光」がSOA内部の電子(キャリア)を消費して増幅力を飽和させ、同時に通る弱い「プローブ光」の増幅度を変化させます。ポンプ光が「1」のときプローブの出力が下がるため、論理が反転する(NOTゲートに向く)仕組みです。
  • 交差位相変調(XPM):キャリアの変化は増幅力だけでなく屈折率も変えるため、プローブ光に位相変化が生じます。これをMZIのような干渉計で強度変化に変換することで、明暗比の高い論理ゲートを作れるとされています。

同レビューによれば、ANDはSOAを組み込んだMZIで両経路の位相差をπに設定し、2つの入力が両方「1」のときだけ強め合う干渉が起きる仕組み、ORはSOAと遅延干渉計を組み合わせる仕組みで実現が報告されています。査読済み

まだ商用化されていない、誠実な現在地
このレビュー論文は、全光論理ゲートが商用製品や実用システムに組み込まれているとは述べていません。報告されている多くは数値シミュレーションや研究室レベルの実験にとどまり、著者ら自身も「研究は個別ゲートの実証段階から、複雑な機能を持つ集積フォトニック回路へ移行する途上にある」と位置づけています。消費電力は電子式の論理ゲートより大幅に高く、これが大規模な計算システムへの適用を制限する要因として挙げられています。査読済み(同レビュー論文の結論部分)

7-4. Lightmatter/MITの「光AIプロセッサ」は論理ゲートとは別物

ここまでのブール論理ゲート(1か0かのデジタル演算)とは異なるアプローチとして、MZIを格子状に並べた「メッシュ」で行列演算(掛け算・足し算)を光の干渉そのもので行う研究があります。その先駆けが、MIT・Shenらが2017年に査読付き学術誌Nature Photonicsに発表した論文で、56個のMZIと213個の移相素子からなるメッシュ回路を使い、任意の行列演算をMZIの組み合わせで実装できることを実証しました。論文自身も、この方式を「アナログ計算機」と位置づけています。査読済み(Nature Photonics誌、2017年)

米国のLightmatterは、この系譜の代表的なプレイヤーです。2021年、光で行列演算(AIの推論計算の中核)を行うチップ「Envise」を発表しました。そして2025年4月には、MITなどとの共同研究チームが、光で行列演算を行う回路(フォトニック・テンソルコア)4基と電子制御チップを1つのパッケージにまとめた光AIプロセッサの研究成果を、査読付き学術誌Nature(第640巻、368〜374ページ)に発表しました。査読済み(Nature誌掲載論文)

この光AIプロセッサは、設計上の目標は毎秒400兆演算でしたが、実測では約80兆演算を記録。画像認識モデルのResNetや言語モデルのBERTなどを再学習なしで動かし、GPUと同程度の速度ながら、従来のGPU比で少なくとも10倍のエネルギー効率を示したと報告されています。論文に近い専門家であるMITのDirk Englund氏は、この研究で使われた数値表現の工夫を「ハードウェアの課題を解く巧みな数学的解決策」と評価しています。査読済み

「論理ゲート」と「行列演算」は別の話
7-2・7-3で見た論理ゲート(AND・OR・NOT)は1と0のデジタル演算ですが、Lightmatterの光AIプロセッサは連続的な光の強さ(振幅)で数値を表すアナログ計算です。原理がまったく異なるため、「光コンピューティング」とひとくくりにすると混同しやすい点に注意してください。査読済み(論文本文の記述に基づく整理)
「電子コンピュータに取って代わる」はまだ先の話
この光AIプロセッサも、実際には電子回路と組み合わせたハイブリッド構成であり、電子計算をまるごと置き換えたわけではありません。光コンピューティング分野の別企業Lightelligenceのエンジニアリング担当者は「光コンピューティングが近い将来に電子の汎用コンピューティングに取って代わるとは考えていない」という趣旨の発言をしています。またMITの材料工学者Caroline Ross氏も、光技術の近い将来の価値は主に通信にあり、実際のデータ処理(演算)に使うのは「もう少し先の話」との見方を示しています。未査読(専門家のインタビュー記事・技術解説に基づく)

興味深いことに、Lightmatter自身の現在の主力製品も「Passage」という、光で演算するのではなく光でチップ同士をつなぐ製品に軸足を移しているように見えます(同社公式ページの説明による)。「光で計算する」研究と「光でつなぐ」事業の両方が、同じ会社の中で並行して進んでいるのが2026年時点の実態です。推測を含む(同社が売上構成を公式に開示した一次資料は確認できていません)

まとめると、光の論理ゲート(AND・OR・NOT)は電気信号による制御(MZIスイッチ)が実用段階、光だけで動く全光ゲートはまだ研究・シミュレーション段階、行列演算によるアナログ光AIプロセッサは査読済みの実証段階まで進んでいますが、「電子コンピュータ全般を置き換える」という段階にはまだ遠い、というのが2026年10月時点での誠実な評価だと考えられます。

まとめ

  • AI向けGPUサーバーは電力・発熱の限界に近づいており、特にGPU間・サーバー間をつなぐ電気配線(銅配線)は、高速化するほど消費電力と信号減衰が増えるという構造的な問題を抱えている
  • 光は長距離伝送でも減衰・発熱が少なく、「光電融合」「シリコンフォトニクス」はこの電気配線のボトルネックを緩和する手段として実用段階に入りつつある。ただし光⇄電気の変換自体にもエネルギーがかかる点は残る
  • NVIDIA・Broadcom・TSMCはCo-Packaged Optics(CPO)をAIスイッチに統合する製品を相次いで発表しているが、数値の多くは企業の自社発表で、独立検証や量産の実態は今後確認が必要
  • NTTのIOWN構想は、ネットワーク間(2023年商用化済み)→ボード間(2025年〜)→パッケージ間→ダイ間、と段階的に光化を広げる計画。2030年の目標値は「野心的」と評されており、現時点の達成率は非公開
  • 電子の論理ゲート(AND・OR・NOT)は電子同士の強い相互作用に支えられているが、光子同士は通常ほとんど相互作用しない。そのため光の論理ゲートは、電気信号で光を切り替えるMZIスイッチ(実用段階)と、光だけで動く全光ゲート(SOAの非線形効果を使うが、まだ研究・シミュレーション段階)に分かれる
  • 光コンピューティングは、行列演算を光の干渉で行う「アナログ計算」としてNature誌掲載の査読済み研究までたどり着いたが、現状はあくまで電子回路と組み合わせたハイブリッド構成。「電子コンピュータに取って代わる」とまでは言えず、専門家も特定用途での実用化にとどまるとの見方を示している
  • NTT物性科学基礎研究所の基礎研究や、QDレーザの量子ドットレーザのような光源技術など、日本には光電融合を支える基盤技術の蓄積がある
Never Give Up
光で情報を伝える・光で計算するという発想自体は、何十年も前から研究されてきました。長い間「夢の技術」「まだ早い」と言われ続け、脚光を浴びることも少ない、地道な基礎研究の領域だったのです。ところが2020年代半ば、AIの爆発的な普及という誰も予想しなかった形で、電気配線の限界という壁に世界中がぶつかり、その解決策として光工学の研究が一気に表舞台に引き上げられました。ニッチだと思われていた技術が、時代の必要性と出会った瞬間に主役になる。これは光電融合だけの話ではありません。今は小さく、誰にも注目されていないように見える挑戦も、いつか世界が追いつく日が来るかもしれない。その日まで、あきらめずに磨き続けることに意味があります。
参考

2026年10月28日時点の情報です。光半導体・CPOの分野は動きが速いため、最新の商用化状況は各社の公式発表で確認してください。本ブログの別記事「叡-Ⅱとは?144量子ビット国産量子コンピュータの仕組みと量子-HPC連携」では、GPUと並ぶAI・HPC向けハードウェアである量子コンピュータの最新動向を、「AIとは何か?10年の歴史と未来予測」ではなぜGPUがAIに欠かせないのかを、それぞれ詳しく扱っています。あわせてご覧ください。

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